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「なんで、この傘……」
伊原は槇が少し掲げて見せた傘をちらと一瞥すると、すぐにふいっと目を逸らした。
「傘、いるだろ」
「そうじゃなくて、なんでこの傘を伊原が持ってたの?」
「マキがこの傘をクリスマス会のプレゼントに出してるの見てたから、後輩に頼み込んで無理やり譲ってもらったんだ」
「なんでそんなこと」
「好きだからに決まってんだろ」
ぼそりとぶっきらぼうな答えが返ってくる。
「好きだから、何か一つでいいからマキに繋がる物が欲しかったんだ」
槇はその言葉を呆然と聞いた。今、伊原はなんと言った?――
「好きだから、愛してるから、心配もするし大事にしたいと思った。それってマキにとっては迷惑でしかなかったのか? 全部、俺に依存しろなんてことは言わないけど、困っている時は助けを求めるとか、それくらいは甘えてもいいんじゃないのか? 一生懸命歯を食いしばって一人でコツコツと頑張るマキをすごく偉いと思うけど、じゃあ何のために俺はマキの傍にいるんだ?」
「嘘……」
「え?」
「好きだなんて嘘だ! 俺の事なんてなんとも思ってないくせに! どうせ、俺なんてただのセフレなんだろ? 他にも誰かとしてるんだろ! あの時だって誰かシャワー浴びてた!」
「あの時?」
怪訝そうな顔の伊原にかっと頭に血が上った。槇が酷く傷ついて逃げ出したあの晩の事を、憶えてもいないのだ。
やっぱりそうだ。俺のことなんて、結局どうでもいいってことだ。
それなのに好きだなんて言って、俺を翻弄して――!
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