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「あのラジカセの曲を聴いた時、俺はマキが自分と同じ気持ちでいてくれたんだと思った。高専の頃は気持ちを伝えられなかったけど、あれを聴いて、マキもずっと俺と同じように気持ちを伝えられないまま抱えこんでいたんだと思ってた。それは間違いだったのか?」
縋るように自分を見つめる伊原の目に、みるみるうちに涙が溜まるのを見て、槇は息を飲んだ。いつも自信に満ち溢れ強く堂々としていた男が、まるで道に迷った子供のように心許ない表情を浮かべている。そうさせてしまったのが自分だと思うと、槇の心に衝撃が走った。自分がツラいということばかり考えて、伊原の気持ちなど全く顧みることをしなかったことに今更ながら気づいたのだ。
向けられる優しさも思いやりも、何もかもを勝手に同情だ、憐れみだと切り捨てていた。思い返せば、いつの時も伊原は、槇のことを本当に大事に扱ってくれていたではないか。それなのに、自信がなくて、捨てられるのが怖くて、目の前の現実から目を背けてばかりいたのだ。
「伊原……っちがっ、ごめん」
伊原の腕をぎゅっと掴んだ。槇の目からもぽろりと涙が零れ落ちる。
「こわかったんだ。こんなダメな自分いつ切られても文句なんかいえない。だからいつ捨てられてもいいようにってそればっかり考えてて」
「なんで、そうなるんだよ」
「俺ばっかり伊原のことが好きで、伊原は俺のことなんて、なんとも思ってないって、ずっとそう思ってたからっ……」
槇は伊原の肩先に顔を押し付けると、声を震わせた。
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