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「そうか……。俺、一度もマキに好きだってちゃんと言ったことなかったんだな……。ごめん、言わなくてもきっとわかってるはずだって自惚れてたのかもしれない。これだけしてるんだから、わかってもらえて当然だって」
「ちが、伊原は悪くない、謝るなよ」
「今更かもしれないけど、俺はマキの事が好きだ。ずっとマキの事ばかり考えてる。だからいつまでも一緒にいたい。ダメか?」
伊原はなおもしがみついている槇の肩をそっと押し返すと、顔を覗き込むようにして言った。その顔のどこにも嘘や迷いはなかった。
言葉が足りなかったせいで、臆病だったせいで、高専の時から思いは通じ合っていたのに、随分と遠回りをしてしまっていたのだ。
だけど、もうそんなのは終わりにする。
槇もしっかりと伊原の目を見つめるとゆっくりと想いを口にした。
「俺も、伊原が好き。ずっとずっと好きだった」
雨は激しさを増し、まるで外界から遮断するカーテンのように降り注ぐ。その中で槇は伊原に強く抱きしめられた。自然と唇が求め合い、お互いの存在を慈しむように触れ合った。
何故、今まで気がつかなかったのか。これほどまでに気持ちが溢れているのに。
どれくらいの時間、そうしていただろう。雨はすっかり小降りになっていた。
伊原は名残惜しげに顔を離すと、そっと槇の唇を指で拭った。そして、「帰ろう」と目を細め、槇に手を差し伸べた。
未来へ、明日へ。
いつでも必ずそこにいるだろう、伊原の元へ。
槇はこくりと深く頷き、差し出された手を強く握り返した。
End.
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