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「伊原?」
声が上擦る。急激に心拍数があがる。
髪に吐息がかかる微かな刺激にさえ背中にぞくりとした痺れが走る。
「ずっと、こうしたかった」
耳元で囁く、低くて甘い声。
家に来ないかと誘われた時からそんな予感はあった。いや、期待していたのだ。社交辞令かもしれない、などと自らに予防線を張りながらも、心の底ではこうなることを待ち望んでいた。
一夜限りで構わないから伊原に抱かれたい。そうすれば、本当に今度こそ、その思い出を胸にしまって強く生きていける。そんな気がしていた。
「がっつくのはやめようと思ってたけどやっぱ無理だ」
ひょいっと抱えあげられ向かったのは、玄関を上がってすぐ右側の部屋。開け放たれたドアの奥にセミダブルのベッドが見えた。
「い、伊原っ! あの、シャワーとか……」
「あとでいいだろ? 我慢できない」
どさりとベッドに下ろされ、上に伊原がのしかかる。
「だ、駄目だって。俺、汚れてるし……」
今日は一日中デスクワークだったとはいえ、全く汗をかかなかった訳ではない。伊原にそんな自分を触れさせるのは申し訳ない気がした。嬉しい気持ちと戸惑いが交互にこみあげてきて、槇は堪らずに身動ぎする。
「マキの匂い、久しぶりだ。すげぇそそる」
「んっ……」
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