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カタンと頭上で音がして、手を伸ばした伊原がローションのボトルを手にしたのがわかった。先ほど感じた胸の痛みが再びぶり返す。今、伊原の前にいるのは自分。他の誰でもない。その事だけを考えていればいい。そう自分に言い聞かせる。
シーツに伏して唇を噛み締めていると、伊原の手が太ももを持ち上げた。弛緩した身体は伊原のなすがままに開かれ秘所がむき出しになる。たっぷりとローションをまとった指先が後孔をつつき、浅いところをゆるゆると出入りする。久しぶりの行為に、身体が勝手に逃げを打つ。
「キツいな」
伊原は、右手の指を槇の中に埋めたまま、左手でローションを双球から茎へと塗り拡げた。ぞわりとした快感が背筋を駆け上る。
「なぁ、マキ。俺のあと、誰にもここ、触らせてない?」
くっと挿し込まれた指に槇は思わず息を詰めた。
「あぅっ……」
そんな事、決まっている。自分は他の人とそういうことしているくせに、ずるい。
ずっと、伊原の事だけを想っていた。だから、誰かとそんな関係になるなんてあり得ない。だけど、そんな事を口に出せるわけがない。伊原の望む答えはそんなものではないはずだから。
なんと答えれば伊原の望んだ答えになる?
適当な言い訳も嘘も咄嗟に思い浮かばず途方に暮れ、つんと鼻の奥が痛み目の奥が熱くなった。
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