プロローグ

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 槇は、高専時代の同級生だ。  伊原がサッカー部のエースストライカーとして注目される機会も多く、常に友人達に囲まれ賑やかに過ごしていたのに対し、槇は物静かでどちらかというと目立たない存在だった。  それに加えて伊原の機械工学科と槇の電気システム工学科ではほとんど接点もない。  しかし、二人とも実家が通学には些か不便な遠隔地だったこともあり同じ寮に入っていて、言葉を交わしたりすることこそないもののそれなりに顔は見知っていた。  それが、五年生に進級し少し経った頃、毎年催される寮祭のあとの打ち上げで何故か意気投合し、少々酒も入っていたこともあって勢いでなんとなくそのまま体の関係をもってしまった。  性格も正反対といってよい二人だったので、お互いの足りない部分に惹かれるものがあったのかもしれない。  その後、表面上は以前と同じ単なる同級生を演じ廊下ですれ違っても軽く挨拶をする程度だったが、人目を忍んで密かに寮の部屋を行き来することで、関係は続いた。 「伊原は普段どんな音楽聴いてるの?」  ある日ぽつり、と問われて伊原はその当時好きだった人気男性デュオのアルバムを貸した。     
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