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会計を済ませ外に出ると、いつもシャッターが閉まって静まり返っている商店街がまだ明るかった。ただいつもより早く通り掛っただけの事なのだが、なんだか歓迎されているような気がしてそんな些細なことさえ嬉しい。その中の一軒に、今まではシャッターが下りていて気がつかなかったが小さなケーキ店があった。店先に小さなワゴンを出して、ケーキの箱を高く積み上げている。サンタの格好をしたバイトらしい若い男の子が道行く人に一生懸命声を張り上げ、セールスに奮闘中だ。
「マキ、ケーキあれにする?」
「え、いいよ。あんな大きいのじゃなくて小さいショートケーキみたいなので」
「いいさ、食べ切れなかったら残せば。こっちのほうがクリスマス! って感じじゃん」
「でも……」
「それに、マキ甘いもの好きだろ? いつも居酒屋でデザートうまそうに食ってるし」
伊原はレジ袋をガサガサいわせながらその青年に近づくと一番大きな箱を指差し、注文してしまった。槇はその姿を見ながら自分の顔がどんどん赤くなっていくのを感じた。甘い物好きだと気づかれていたんだと思うと少し恥ずかしいし、気づいてくれていたんだと嬉しくもあった。
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