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部屋に辿り着くと、伊原は早速キッチンに立った。手伝うという槇に「いいから、俺に任せろって。マキは座ってて」と鼻歌交じりに、袋から食材を取り出していく。槇にしても、会社の独身寮で暮らしていて朝食と夕食は賄いを利用しているので料理が得意な訳でもない。却って足手まといになっても、と大人しく引き下がった。
居間に置かれている小さなテーブルの上を片付けて、カセットコンロをセットする。気になってちらちらと伊原の姿を見ていたが、意外にも伊原はてきぱきと手を動かし、野菜などもリズミカルに刻んでいる。料理の経験があまりないといってもやはり器用になんでもこなしてしまう人間なんだな、と槇は改めて伊原を尊敬の目で見た。
「あ、そうだ」
伊原は急に何か思いついたように作業を止めタオルで手を拭うと、どたどたと寝室に向かった。そして赤いリボンが結ばれた深緑色の包みを持って戻って来た。
「クリスマスプレゼント」
「え?」
あまりに唐突だったので、ずいっと差し出されたその包みを槇はぽかんとしたまま受け取ってしまった。
「スーツのままじゃ窮屈だろ? それに着替えろよ」
リボンを丁寧に解いて中を開けると、やわらかくふわふわと肌触りのよいパジャマが入っている。サックスブルーのチェックが槇の好みにぴったりだ。
「ありがとう! 大事にするよ」
じわじわとこみ上げてくる嬉しさに、思わず顔が綻ぶ。
「それさ、持って帰ったりするなよ」
「え?」
プレゼントだと言っていた気がするが、実際には貸してくれるだけということなのだろうか?
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