第五章

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 槇が戸惑った表情を浮かべ伊原を見上げると、何故か伊原は少し耳を赤らめてぷいっと横を向いた。 「マキがここに来た時、着たらいいと思って買ったヤツだから」 「あ……」  槇はこの部屋に来ても、シャワーを浴びた後は素肌にワイシャツだけ羽織りそのままベッドに入るし、翌朝もシャワーを浴びるとすぐに着てきたスーツに着替えて帰るのが習慣になっていた。伊原に何か着る物を借りるのも図々しい気がしたし、ましてやこの部屋に自分の物を置いてしまうなど絶対にしてはいけない事だと思っていたのだ。  このパジャマは『とりあえず』、今はこの部屋に泊まらせてもらえるのは自分だけなのだ、という証に思えて胸が熱くなる。 「マキ、高専の頃寝る時はいつもパジャマ着てたろ。だから……」 「あ、うん。今でも寮で寝る時はパジャマだし」 「きちんとパジャマ着てるのって新鮮っつーか、マキらしいなと思ってた」  確かに他の寮生たちはジャージだったりスウェットだったり部屋着のままベッドにも入っているようだったが、槇は幼い頃から眠る時にはパジャマでないとどうも落ち着かない性質だった。  伊原が夜中にこっそり訪ねてきていた時も、もちろんパジャマで迎え入れていた。今更ながら、それって子供っぽかったりしたのかな、などと恥ずかしくなった。
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