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その後、二人で伊原の車に乗り込むと郊外の大型ショッピングモールへと出かけた。カフェで朝食兼昼食を摂り、以前から二人の話題にも上っていた映画を観た。
それから、伊原が食器を見たいというのでショッピングモールの中の雑貨店やキッチン用品を扱うショップをうろうろした。なんだかデートみたいだと思いつつも、気分は晴れない。先ほどの薬の件が喉にささった小骨のようにちくちくと槇を苛んでいる。伊原は本当に何も気づかなかったのだろうか。どちらにしろ、風邪をひいて薬を飲んでいると言ってしまったのだから、気を遣わせてしまうかもしれない。
「マキ、ちょっとこれ見てみろよ」
「あ、うん」
伊原の差し出す綺麗なブルーのグラスも上の空でぼんやりと眺める。
「なんか、マキ元気ないな。少しどこかで休むか?」
「え、全然大丈夫だよっ!」
病気だからと気を遣われたりするのはいやだと考えていたばっかりに、余計に気を遣わせてしまう結果になるなんて。
「熱とかあるんじゃないのか?」
額に伸ばされる伊原の手を思わず払いのけると、伊原は怪訝そうに眉を顰める。
「ご、ごめん。ほんと、なんともないから気にしないで」
慌てて取り繕い身を翻そうとして、ドンっと後ろにいた人物にぶつかってしまった。
「あ、すみません……っ」
「あれ? 槇くん?」
見上げると、見慣れた人物が立っていた。普段は仕立ての良いスーツを着こなしているが、今日はカジュアルなジャケットにストールを首に巻いている。
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