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「鹿賀さん。えと、こんにちは」
今のごたごたを見られてしまっただろうか。こんな所でまさか偶然会ってしまうなんて。メールをしていた時といい、鹿賀には何かと見られたくない恥ずかしい場面を見られてしまう。
その時、少し離れた場所にいた綺麗な女性が「雅人、先行ってるわね」と鹿賀の下の名を呼び、優雅に去っていった。鹿賀はひらひらと手を振って応えると、すぐに槇のほうに向き直りにっこりと微笑んだ。
「そちらは、同じ会社の方?」
「あ、いえ。学生時代の友人です」
「……どうも」
伊原は鹿賀を睨みつけるように目を眇めると、少しだけ頭を下げた。普段、誰に対してもそんな不遜な態度を取るのを見たことがなかったので槇は狼狽えた。
「あぁ、折角の休日にお邪魔して悪かったね。じゃあ僕はこれで。よいクリスマスを」
「はい、ありがとうございます。またいずれ社のほうには伺いますので」
槇はぺこりと頭を下げ、鹿賀を見送った。
「マキ、今の誰」
背後から不機嫌そうな声が降ってくる。
「この前ちょっと話した、今俺がシステム構築担当してるデパートの人」
「ふ……ん」
槇はなぜ伊原が急に不機嫌になったのかわからず戸惑った。もしかしたら、さっき手を振り払ってしまったことで傷つけてしまっただろうか。だけど、今さら謝って病気のことを蒸し返すこともできない。
槇は俯いて押し黙った。
本当に、弱い自分が情けなくてイヤになる――。
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