第六章

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 呆れながらも鹿賀は、槇の隣のPCに向かい伝票の束に手を伸ばした。どうやら手伝う気でいるらしい。 「あ、いえ。僕が一人で処理しますので、鹿賀さんはどうぞお先に……」 「部外者の君を一人残して、僕が『はい、そうですか』って帰れると思う?」  そう言われれば、確かにそうだ。社外の人間を顧客情報や売り上げなど重要なデータがすべて納められている社内システムサーバがある部屋に残すことはセキュリティ的に問題があるだろう。 「あ……、すみません」  結局は、鹿賀もこの場に残ることになるのだ。それならば少しでも早く終えるために手伝うというのは当然の事だ。槇が自分の考えの浅はかさにしゅんとすると鹿賀は苦笑を浮かべた。 「勘違いしないでね。君を信用していないって訳じゃないんだ。僕が関わっている仕事なんだからきちんと責任をとりたいだけ。元々、バグがないシステムなんてある訳ないんだから、槇くんがあまり気に病む必要はないよ」 「はい、ありがとうございます」  槇は、鹿賀がシステムやプログラムについてそれなりの知識がある人物で本当によかったと思った。一つの不具合があっただけで烈火のごとく怒り出すクライアントもいるのだ。
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