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「そう。君にも言ったよね。愛している人といるより愛してくれる人といるほうがいいって。その方が楽だって。なのに、僕は愛してくれる婚約者を捨てて君を選んだ。そして、君にはその逆を迫ったんだ。結局、君が伊原くんに対して持っている気持ちは僕が君に抱く気持ちと同じなんだ。相手が自分の事を好きでなくてもいい。そばにいられるならそれでいい」
鹿賀はそれだけ言うと、シートに身を沈みこませた。かける言葉がみつけられず、沈黙が流れる。
「卑怯だよね。弱っている君の心につけこんで、僕はさらに君を追い詰めたんだ。本当に悪いことをしたと思っているよ」
槇は、首を横に振った。
「鹿賀さんがいなかったら、僕は逃げ場すらなくて、もっと自分自身を追い込んでいたと思います。卑怯だと言うなら僕だって同罪です。鹿賀さんの優しさに甘えて、結局は僕も逃げていたんです。だから、自分を責めたりしないでください」
もし、伊原と再会していなかったら鹿賀との関係は変わっていたのだろうか。そんな仮定に意味がないことはわかっているけれど、こうやって出会い、そして別れていくのが、ただタイミングの問題でしかないのかと考えるのは少し寂しい気がした。
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