第十章

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 会社に着くと寮母さんに電話して、鍵をなくしたのでマスターキーで部屋の扉をあけてほしいとお願いした。鍵をなくしたことについては、しっかりお小言をくらい、鍵の取替えをするので費用も出さなくてはいけないという話も聞いた。それくらいはしかたないことだろう。  携帯には、昨日の夜からひっきりなしに伊原からのメールや着信が入っていた。でも、メールは開いていないし、留守電も聞いていない。もちろん、いつかはちゃんと話し合いをして荷物も引取りに行かなければいけないとわかっていたが、冷静になって伊原と向き合うにはもう少し冷却期間が必要だった。  槇は仕事に集中し、忙しく動き回ることでなんとか伊原の事を頭から追い払おうと努力した。  そんな槇の様子を心配したのか、西が晩飯でも一緒に食べに行こうかと誘ってくれた。寮に戻ってもどうせ、一人寂しく賄いを食べてベッドに潜り込むだけだ。それならば、少し疲れているけれど誰かと一緒にいるほうが気は紛れる。槇は西の申し出をありがたく受け入れ、久しぶりに残業せずに西と二人で会社を出た。  一階でエレベーターを降り広い吹き抜けのホールに入ると、槇はぴたりと固まった。出入り口の自動ドアの傍らに伊原が立っているのが見えたのだ。 ――なんで?
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