第三章

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第三章

 私鉄電車に十五分ほど揺られ、降りたのは郊外の小さな駅だった。足早に家路を急ぐ人たちに混じり改札をくぐる。昼間はそれなりの賑わいを見せるのであろう商店街も今はシャッターを下ろし静まり返っている。冬の空はしんとしていて、まばらに散りばめられた星が氷の粒のように冷たい光を放っていた。  伊原は途中、ただ一軒煌々と灯りを照らしているコンビニでビール数本とおつまみを調達した。  そこから数分歩いただけで辺りは閑静な住宅街になった。街路灯もまばらな道をお互い口をつぐんだまま歩く。こつこつと響く靴の音が、いつのまにか伊原のそれと同調していることに気づき、槇は慌てて少しだけ歩幅を狭めリズムを変えた。そんな些細の事ですら、伊原に寄り添ってしまっている自分を晒しているようで怖いのだ。  槇は最初、駅までの帰り道を確認しながら歩いていた。だが、何度か同じような戸建住宅が並ぶ交差点を曲がるうち、駅の方角がわからなくなってしまった。元々、方向音痴の気があるので仕方ない。帰る時に、伊原に地図を描いてくれるよう頼めばいい、と諦めた。  先ほどまでアルコールのおかげで火照っていた体はすっかり醒めてしまった。今はすっきりとした頭で冷静に自分のおかれた立場を考えている。
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