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真冬の凍える風に背を押され、ウパシは当て所なく走った。新雪が降り積もった野にユクケリの跡が点々と続いていく。コタンの端まで来るといよいよ足がもつれ出し、走るのをやめた。白い息を吐き出しながら、乱れた呼吸を整えようと前屈みになり膝に手を置く。極寒の空気はウパシの喉に凍てつかせるような鋭い痛みを与え、苦しさに喘いだ。
ふらりと頭を上げて天を仰ぐ。いつから降っていたのだろうか、細かく疎らな雪片がウパシの髪や背から、さらさらと滑り落ちた。
果てしなく広がる夜空から神が落とした純白の雪。白い息の向こうに見え隠れする星々は、ウパシを見守り静かに瞬いている。
「おお・・・・・・、おおぉ・・・・・・」
頬を流れる熱い涙が冷たい雪の破片を溶かすように、ウパシの慟哭は静寂に包まれた闇夜へと消えていった。
ー完ー
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