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夏に収穫した食糧の備蓄が少なくなってきたある日の冬。
エゾフクロウのお告げがあり、男達は穴熊猟に出掛ける準備をしていた。冬眠中のヒグマを仕掛け弓で仕留めるのである。矢の先にはトリカブトの根茎からとったスルクが塗られており、ウパシが作った秘伝のものが使われることになった。
雪深い山の天候は穏やかで、天から注がれる太陽の暖かな恵みを存分に受けながら、男達は目的の巣穴へと辿り着く。眠っているヒグマを起こさぬように弓を仕掛け、合図とともに矢が発射された。二時間ほどでヒグマの絶命を確認すると、ウパシを先頭に獲物を捕獲しに向かう。
ウパシは巣穴から引きずり出したそのヒグマを見るや、息を飲み驚嘆した。
これまでのどの熊よりも立派な牙を持ち、一目見てこのヒグマこそが娘を殺したキムンカムイなのだということが、ありありとわかったのだ。
しかし仇を取った喜びどころか、ウパシの隙間だらけになっていた心に乾いた虚しさだけが通り抜けていく。愛した娘はもう戻らない。
その時、男の一人が声を上げた。巣穴の奥に子熊が隠れていたのである。カムイの子はペウレプカムイとなりコタンで養っていくのだ。男達は誇らしげに家族が待つコタンへと下山した。
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