ウパシの涙

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アレス エペレ(我々が育てた子熊よ)、カムイ モシリ エアラパ (神々の国へ行って)キ ワ、オナ テクサマ ウヌ (父母のもと)、テクサム テクサ(そのひざもとに)マ タ、ハル トウラノ トノト ト(食べ物や酒の土産とともに)ウラ・・・・・・」  祭主がカムイノミを唱え終わると、いよいよ子熊の霊送りが始まる。  ウパシを含む男達数名が子熊に(つな)を結びつけ、祭壇前まで連れて行く。引っ張られ、揺すられ、まるで遊んでいるようなカムイの姿を見て、女達が手拍子とともに「ホイヤーホッ、ホイヤーホッ」と掛け声を上げた。  祭壇前ではヘペレア(花矢)イが射られる。子熊への贈り物であり、細く弱い矢で射抜かれるたびに、家族のもとへ帰れるのだと喜び、跳ね回っている。次第に遊び疲れた子熊はぐったりとし、頃合いを見はからって、トドマツの枝葉が敷かれた茣蓙(ござ)にうつ伏せで寝かせられた。喉の下には丸太の棒が置かれている。挟むように首の上にも丸太が渡された。  数人の男達が、渡した丸太の上に乗って首を絞め始める。ウパシは子熊の胴体に跨り、両手で丸太を沈ませた。こうして絶命するまで圧迫し続け、永遠の眠りについた瞬間こそ、熊という肉体から魂が解き放たれるのである。
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