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ウパシは子熊の四肢の痙攣を感じ、くぐもった獣の呻き声が鼓膜を震わせたので、その時が来たのだと予感した。
そして儀式の盛り上がりが最高潮に達した瞬間、魂が肉体から離れペウレプカムイは神々の国へと旅立ったのである。
祭壇を囲んでいた女達は餞の歌を歌い、御神酒をトゥキへ注ぎ始めた。魂の解離を見届けた祭主が旅立ちのカムイノミを唱え始め、男達はイクパスイを子熊の口元へ持って行き御神酒を捧げる。民もトゥキを掲げるとカムイに祈りを捧げて口をつけた。
祭主が籠から団子や胡桃を掴み取り、横たわったカムイへ撒いたあと、その籠を若者へと手渡す。若者はチセの屋根へ上がると、籠からそれらの食べ物を撒き、民は歓声を上げて拾い集めた。ハルランナを楽しみ喜び合うことで、これを見ている神もまた喜び、食べ物豊かなこのコタンへ足を運んでくれるのである。
儀式の最後には東の空へ向けてヘペレアイが放たれた。澄み切った冬空に緩やかな弧を描いて飛んでいく矢を見つめていたウパシの心は、一人空虚を彷徨っているようだった。
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