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祭壇の前で膝をつき、頭蓋へと視線を落とす。残された毛皮は耳と口のまわりのみであり、つぶらな瞳は刳り貫かれ、代わりに小さく丸められたイナウルが詰められていた。
ウパシはそうっと手を伸ばすと、指先が細かく震えていることに気がついて一旦は引っ込めたが、もう一度意を決しその耳の辺りへと触れた瞬間、息を飲んだ。
紛れもなく、これがマラプトだと突きつけられたからである。懐かしい毛並みの手触りもなければ、あの日の温もりも感じない。
失ったのだ。
愛する娘をヒグマに殺され、その仇をキムンカムイとして送ったことも、家族のように慈しみ育てた子熊をこの手にかけたことも・・・・・・。その魂達が今は神々の国で幸せに暮らしていることも、そのどれもがウパシにとって現実であり真である。
では、この胸を深く抉る痛みと息苦しさは何だというのか。
ウパシはよろよろと力なく立ち上がり、後ずさるように祭壇から離れるとチセを飛び出した。
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