ティッシュ売りの青年

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 午後七時の歓楽街。そのど真ん中で、懸命に受け売りの説明文句に声を張り上るのは、先月二十歳になったばかりの新青年だ。 「ティッシュはいかがですかー。一つ100円でーす」 「柔らかくても丈夫です。皮膚を傷めませんよー!」  宣伝のための無料ポケットティッシュの配布ではない、あくまで販売なのである。    彼は短時間で割のいいバイトと思い、ティッシュ売りと言う聞きなれないバイトに飛びついたものの世間は厳しかった。  更に、気候も平年気温を大幅に下回っているは、夜空からは年に数回しか降らない雪までが大粒で舞い降りて来るはで、環境も最悪。  頭上に積もった湿気を多分に含んだ雪は、体温に触れると直ぐに解けだし首筋を流れていく。  そんな不運な状況下でも、彼は仕事に対しては凄く真面目であった。  真っ赤になった耳を片手で抑えながら道行く人に呼び掛け続ける。
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