春雪

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 酒もお喋りもあまり好きではない相也がその飲み会に参加したのは、教授である西村(にしむら)先生が来るということと、主旨的に基本全員参加が求められたからだった。輪の空気に馴染める方ではないけれど、進んで乱して心が痛まないというわけでもない。  そうして相也が出費に見合わない味と量の料理を食べ、興味のない話題に相槌を打ち続けて三時間。ようやくお開きとなって店を出ると、外はちらちらと雪が舞っていた。関東ではただでさえ雪が珍しいのに、三月ともなれば誰もが予想外のことだった。 「うそ、降るなんて全然言ってなかったのに」 「傘なんて持って来てないよ」 「けっこう降るのかな?」  西洋研の面々が誰にともなく声をあげる。ほとんどがいくらかは酔っているのだろう。その会話にならないおしゃべりは次第に大きくなっていき、往来する人の迷惑になるかというところだった。  室長である柏原(かしわばら)が、パンパンと強めに手をたたく。 「はいはい、注目」  それに合わせて、道に広がっていた面々が彼に注目する。 「えー確認してみましたが、この雪は一時的なもののようです。日付が変わる頃には止む予報だから、それまで二次会っていうのはどうでしょうか?」  それを聞いた面々の反応は早かった。 「お、いいね!」 「雪が止まなかったら朝までコースだな!」 「せっかくだから飲むぞー!!」  男女問わず、威勢のいい声が次々に上がる。     
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