平成14年 W杯で沸く渋谷でディン・ディディンと会う

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渋谷交差点を渡った先、センター街の入口でディン・ディディンに話しかけた。普段の俺だったら、こんな怪しい大男には話しかけない。渋谷のバカ騒ぎのテンションに連れられてしまったところがあったんだ。 「よう!ディン・ディディン久しぶり。覚えているか、俺を?」 「ああ、君か。覚えているよ。何回か会っているよな」 ディン・ディディンが俺のことを覚えてくれていて、俺はなぜか嬉しかった。 「ディン・ディディン!あなたは、ひょっとして阪神淡路大震災の時、がれきの撤去作業をやってたか?」 「ああ、やっていた。よく知っているね。私はどこまでも歩くタイプの人間だ。歩いて色々なものを運ぶ作業は合っていたんだ」 「マジか!テレビで観たんだよ、ディン・ディディンを。もう一つ確認しておこう。ひょっとしてディン・ディディン、あなたは去年の同時多発テロの時、ニューヨークにいたんじゃないか?」 「おお、そうだよ。よく知っているね。私は、ニューヨークで荷物を運ぶ仕事をやっていた。職場が貿易センタービルから近い場所にあってね。あの時は大変だった。建物の下敷きになっている人を助けたりしていた」 「ディン・ディディン、あなたはすごい人なんだな。人の役に立っている」 「たまたま歩いていたからそうなっただけだ。人生は、大体のことがたまたま歩いている時に起こるものだ」 「まったく不思議な人だよ。あなたは慈善活動家かなんかなのか?」 「いや。歩いているだけだ。仕事も運搬や配達や引っ越しやゴミ回収など転々としている。気がついたら別の道を歩いているんだ。自分でもどこに向かっているのかよく分からない。気がついたら中国にいてアメリカにいてインドにいてロシアにいて北欧にいて、そして今こうしてまた日本にいる」 「すごいな。本当に世界中を旅しているんだな。ちょうどワールドカップやってる時に日本に来れて良かったじゃないか」
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