訃報

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訃報

 骨の焼ける匂いがしても、僕には実感が湧かなかった。そればかりか、参列者の涙する姿に、若干の違和感を覚える。  僕は此処に居ても良いのだろうか?  今日は、僕の父の葬式の日――。  父は、お世辞にも良き父ではなかった。  毎晩、酒を飲んでは暴れ、母や僕たち子供に暴力を振るい、周りにも迷惑をかけていた。  僕の、子供の頃の思い出といえば、折檻と虐待の記憶しかない。  だからこそ、僕は早くに家を出て、父との関係を断ったのだった。  それから数十年後――。  突然の父の死により、僕は此処へと帰って来たのだった。  「お父さんが、交通事故で亡くなったから、今すぐ帰って来て」  電話の向こうの母の声と、周囲の泣き声が聞こえたが、僕には何の感情も湧いてこなかった。  数十年も会わなかった父の死を訃げられても、どこかの遠くの事の様に感じて、現実味がなかった。  遠くの国の紛争の様に、別の世界の終わりの様に、悲しい事かもしれないが、やはり実感が湧かなかった。  「わかったよ。とりあえず帰るよ」  「……ありがとう」  ありがとう――。  母の、その言葉の意味は解らなかったが、とにかく僕は数十年振りに、実家に帰った。  「ただいま」  「お帰り。何年振りかしら」  「何十年だよ。それより――」  母は、想っていたよりも元気で、笑顔で僕を迎えた。電話では、あんなにも泣いていたので、正直拍子抜けした。  まあ、ずっと泣かれていても迷惑なので、それはそれとして良かったのだろう。  「それで、遺体はどこ?」  「家が狭いから、葬儀屋さんに預けてあるの。会いたかった?」  「……いや」  思わず、口を出てしまった。  勿論、母は悲しい顔をしたが、僕は悪いとは想っていない。  それだけの事を、僕は父から受けて来たのだから……。  その日は、移動の疲れてもあったので、早く寝る事にした。  明日は、嫌でも父と対面しなければならない――と想うと、憂鬱で仕方がない。
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