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校長は、私たちが静まるのを待ってから、淡々と、かつ大仰に続けた。 「虫歯になるから、とか、あるいは、太るから、とか、この中にいるおませさんは考えたかもしれないね。でも違う。お父さんやお母さんに聞いたことがある人もいるでしょう。この町では、過剰な水分摂取は罪にあたる、と」 当時の私たちの、おそらくほとんどは、その言葉の意味を理解できなかった。冷たいパイプ椅子に腰掛けていると、床に足がつかない。それくらい単純明快な事案でなければらなかったのだ。 隣に座っていた小さな男の子が、私の袖をくいと引いて耳元で囁いた。 「『じょうれい』っていうんだって。おれ兄ちゃんに聞いたことあるんだ」 「なあに、それ?」 私は思わず男の子を見つめていた。 「ええ、ええ。君たちにも分かるようにこれから丁寧に説明するよ。まず……」 校長の声はもはや私の耳に届かなかった。私は男の子の話だけに、ひどく真剣に耳を傾けた。
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