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その時の男の子の話は、こうだ。 私たちの住む町には特別な規則があって、法律と同じようにはたらく。つまり規則を破ったらその時点で私たちは罪人で、罰がくだされる。そしてその規則とは、私たちの水分摂取量を制限するものだった。 一日に、唾液以外の水分を200ミリリットル以上とってはならない。どんな場合においても、たとえ熱中症で脱水症状を示していても。 「こっそり飲めば平気だよ」 と、幼い私は言った。男の子は「ダメなんだ」と泣きそうに答えた。私のへそのすぐ上の位置に軽く手を置いて、ゆっくり口を開いた。 「兄ちゃんが言ってた。ここに、水分をカウントするためのキカイがあるって。一日分の量を超えたら、スイッチが入って、し、死ぬって」 まわりの子たちは、三時間にも及ぶことになる校長の説明を食い入るように聞いていたから、私たち二人の話し声なんてまるで気に留めていないふうだった。 「生まれてからすぐ、手術されるんだ。ほら、キズがある」 服をたくしあげて見せてくれたそれは、確かに古い手術跡で、私の体にもあるものだった。私はそれまで、別段変だと思ったことがなかったから、疑問を持たないだけだったのだ。 「キカイが埋まってるんだよ。水を飲んだら殺されるんだ」 私たちは顔を見合わせて黙った。何分も、何十分も黙りこくっていた思いがする。時々パイプ椅子が私の体のわずかな動きを感じ取って、ギイと鳴いた。
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