雪と彼女

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 周囲の道路や屋根が真っ白に染まり、夕日に照らされたそれらが赤く輝くのを、彼女はベランダから見ていた。必ず行く、と二時間前に連絡してきた相手は、一時間半の道をまだ越えてきてはいないらしい。三十分前から外で待ち続ける彼女の鼻は、夕日に照らされた雪よりも赤く、燃えていた。 「寒いなぁ…、っと」  手も悴んでおり、タッチパネルの操作はぶれてしまうが、ボタン操作ならなんとかできる。相手が確認できる状態であるかどうかも不明だが、彼女はメールを送り付けた。普段なら数分と待たずに返信が来るのだが、さらに十分待っても返ってこない。 「約束忘れてる……事は無いし」  忘れられているとすれば、二時間と少し前の連絡も無かった筈だ。だから忘れられてはいない、と彼女は確信している。であれば、何かあったのかもしれない、と彼女は考える。この土地には珍しく深々と雪が降り続けている今、道路がどんな状況になっているかは想像するに難くない。  その上、遅れるとも何とも連絡が無い状況を鑑みると、事故にでも遭ったのかもしれない。そんな最悪を彼女は考えた。けれど、結果から言えばそれはただの杞憂だった。
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