雪と彼女

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「あっ!」  赤くなった鼻を腕で擦っていた彼女は、聞き馴染みのあるエンジン音に表情を明るくした。色を見ようとすると紫から黒へと色を変えようとしている空の下では少々判別も付けにくいのだが、エンジン音なら別だ。彼女が聞き間違えることは無い。  パッと部屋に飛び込むと、手早く窓とカーテンを閉め、跳ぶようにして玄関を抜けた。勿論、雪の中でも歩けるような靴は履いている。握り締めた携帯が、手の中で震える。開くまでもなく、内容は知れている。 「きーくん!」  階段をしなやかに音も無く下り、バタンとドアが閉められた車の前まで駆け寄ると、彼女は満面の笑みを浮かべた。対する彼はやや呆れ顔で、その頭を乱雑に撫でる。 「外に出てきたのか? 寒いだろ、そんな薄着で」  ほら行くぞ、とその手を頭から彼女の手へと移し、離さないように握りながら彼は歩き出した。彼女は嬉しそうに引かれながら歩いていく。撫でられた頭と繋がれた手の温もりが、彼の言うところの薄着である彼女に寒さを感じさせないでいる。彼女の先程の不満げな表情はどこに行ったのか、笑顔が絶えない。 「きーくんがいるから平気!」 「へいへい、御託はいいから鍵を…って、閉めないで来たのか」  繋いだのとは反対の手で鼻の下をこすり、彼は彼女に応えながらドアノブに手を掛ける。そしてその感触に眉根を寄せた。  当たり前のように開いた扉に小さく溜息を吐き出すと、彼は彼女の手を少し強引に引いて部屋に押し込む。そして彼女が靴を脱いで上がったのを見ながら自分も入り、鍵を掛ける。
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