彼との契約 ~一日目 抱き枕~

2/3
前へ
/113ページ
次へ
カチャリ、とバスルームのドアが開いた音が部屋に響く。 私はベッドに潜り込み、まるで猫みたいに丸まって息を潜めていた。 気配ってどうやって消すのかしら。 まさかとは、まさかとは思うけど……。 やっぱり、この、同じベッドで寝たり、とか……? いやいやいやいや、まさかね。なんか足音が近づいてくるような気がするけど、気のせいよね。 嫌な考えが確信へと変わったのは、私の反対側の布団がゆっくりと捲られ、そこに彼が入ってくるのがわかったからだった。 や、やっぱりぃぃぃっ! 三嶋社長がシャワーを浴びている間に、とっとと他の部屋のソファにでも寝に行けばよかったと、凄まじい後悔が襲う。 仕方ない、彼が寝入ったら、そっと抜け出て他の部屋で寝よう。そこらへんのソファでも使うしか無い。 契約の一週間ずっと、ベッドで寝られないのは辛いだろうけど……。 美容に悪そう……。 隣で横になった社長の身体が動く気配がする。それと同時に、上掛けの布団が衣擦れの音を立てた。私は変わらず、寝たふりを続けている。どうか気付かれませんように。 な、なんか背中に視線を感じる気がするんだけど……。 気のせい気のせい。そういう事にしておこう。 目を瞑りながら、内心すこぶる焦っているのだけど、それと気づかれないように私は微動だにせず息を殺した。 全然動かないのって怪しいかしら。 かといって寝返りなんてしたらそれこそ社長と密着しちゃうわよ。 って、あれ? 大きくごそりと背後で動く気配がしたと思ったら、上布団ごと私の身体が抱き締められた。 うぎゃっ! 「ちょっ! 社長っ!」 なぜに私を抱き枕代わりに使うのか。それとも湯たんぽか。 どちらにしろ許すわけにはいかない。慌ててベッドから飛び出た私は、非難を込めて彼を怒鳴った。 「……起きてるじゃないか」 「起きてるじゃないかじゃありませんっ! 何してるんですかっ! というか、なぜ一緒に寝ようとしてるんですかっ!」 「寝室はここだけだ」 「そーいう意味じゃなくてっ!」 あああおかしいこの人もうわかってるけど本当絶対おかしいっ!今までこの人に仕えてた七年返して誰か! 日本語かみ合わない人じゃなかったはずなんですけどっ!
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1691人が本棚に入れています
本棚に追加