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「社長の方が、お疲れだと思うんですけど……」
ごちゃごちゃ考えつつも、気持ちよかったのでされるがままになっていた私は、肩に置かれていた彼の手を静止して起き上がった。
そうして二人、ベッドの上で座っている形になる。
なんなのこれ。
無表情状態の三嶋社長が座っているのがなんだかとてもシュールに見える。
以前なら目にするはずの無かった光景に、つい、クスクスと笑ってしまった。
だって変なんだもの。何やってんのかしら私達。
すると、まるでピキリと音を立てたように社長の顔が固まった。
機嫌を損ねたかと、一瞬思ったが違うらしい。
少し見開いた目が、彼が驚いているのだと知らせてくれる。じっと見つめてくる視線に耐え切れなくて、私は口を開いた。
「何ですか?」
この人の驚いた顔なんて、かなり貴重。そう思ってまじまじと彼の顔を覗き込んでみたら、ふいっと顔を逸らされた。
「いや……君が、笑ったから」
「私だって人間なんですから、怒りもすれば笑いもしますよ。まあこの状況は、正直言って意味不明ですが」
私が笑った程度で、なぜそんなに驚くんだろう。
そりゃ、私達は笑顔を交し合うような社長と秘書の間柄ではなかったけれど。
「意味不明、か」
至極真面目な顔をして、社長が繰り返した。
「だってそうじゃないですか。秘書の仕事なんて……別に私じゃなくても良いわけですし。社長が私などに拘る理由が、理解できません」
「君に、傍に居て欲しいと言った」
再び視線を私に戻した社長が言う。
本来なら誰もが憧れる口説き文句に聞こえるそれが、私にはどうしても響かない。
だって、無表情なんだもの。
この人。
「だからそれが判らないんです。だって私達、七年も一緒にいたじゃないですか。その間、私は社長に好意を持たれるような事をした覚えもなければ、そう感じた事も無かったんですよ?」
「……」
いや、だから黙らないでってば。
表情が顔にでる人じゃないから、だんまりをやられると無表情で責められてるみたいに感じるから。
私が言ってるのは正論よ?好かれてるなんて感じた事は無いし、好意を示された事も無い……はず。
どちらにしろプライベートでの付き合いは皆無だし、仕事以外ではほとんど無いに等しい人間関係だったのに、突然傍に居てくれ、なんて理解できるわけがないじゃない。それも女なんてよりどりみどりな人に言われたって。
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