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彼がシャワーを浴びて出てきた後、何をどうすればいいのか、どうしたいのか、わからなくて必死に寝た振りを決め込んだ。
不自然に頭まで布団を被って微動だにしない私に、彼は何を告げるでもなく無言でいつも通り隣に入ってきたのだけど。
もちろん眠れるはずも無く、悶々とした夜を過ごしてしまった。
明け方やっと襲ってきた眠りに誘われ仮眠が取れたけれど、目覚めた途端にこの状況。
……昨夜悩んだ自分がものすごく愚かに思えるわ。
昨夜の出来事で、彼が私に向ける態度の意味についての結論を出してしまった。
ただの戯れならばまだ、秘書の仮面をつけたまま、交わすことだって出来ただろう。だけど、目にしてしまった彼の感情や表情は、私にそうさせてはくれなくて。
好意を持たれている、と思ってしまえば、意識してしまうのは仕方なく。
―――私も、女だったのね。
七年も、忙しさにかまけてそういった云々をサボっていたツケが、よもやこんなところで回ってくるとは思わなかった。
昨夜この人に組み敷かれた時の感覚は、未だありありと、この肌に焼き付いて離れない。
駆け巡る熱さに耐え切れなくて、ベッドから抜け出そうと、布団を掴む。
……けれど。
「待ってくれ」
呼び止められて、この上まだ何かあるのかと振り向くと、ついと手を引かれてよろめいた。
彼の腕に抱きとめられるその前に、整った顔が近づいて、さっと唇の端を掠めていく。
「え……」
瞬間感じた体温に、思わず瞳を瞬いた。
今迄されたものとは違う、ほんの一瞬触れただけの軽い口付け。
見開く私の目に映ったものは、照れたように頬を染めた、三嶋社長の顔だった。
どくん、と脈打つ音が大きく聞こえた。
「先に、行っている」
仄かに赤い顔をそのままに、ふっと小さく笑った彼は、固まる私の髪を指先だけでするりと撫でて、静かに部屋を出て行った。
顔も、身体も指先までも。
全身の熱という熱が、上がった気がした。
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