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……意識しちゃってるの、バレバレじゃない。
……可愛いって何、可愛いって。
瞳を細めて告げられた言葉を思い出し、なんだか暴れ出したいような気分になった。
これまで、仕事中に流れていた私と彼の間の空気は言うならばグレー、少しの緊張感を含んだ、まるでビルの外壁みたいな灰色だった。
なのに、今日のあれはなんだろう。
……まるで桃色じゃない。
自分で自分に突っ込みを入れる様なキャラではないのだが、そうでもしなければこのむず痒さを持て余してしまいそうだった。
そもそも可愛いって……仕事中に言う言葉じゃないでしょ。
仕事とプライベートの区別はついてる人だった筈なのになんなのあれ。
まあ拉致監禁状態が既にもう混同しまくってる気がしないでもないけども。
女性への賛辞の言葉など、彼の口から聞いた事なんて無かったのに。
まさか、聞くと同時にそれが自分に向けられるとは……。
二度目の溜息を、先ほどと同じくこっそり吐き出したところで、隣の気配が身じろぐのを感じた。
慌てて息を殺し寝たふりを決め込んだけれど、なぜか私と彼の間に開けていた少しの距離を、一瞬にして詰められてしまう。
二人並んでも十分余裕のあるダブルベッドは、端と端に寄ればそれほど相手と密着しなくて済む。だからこそなるべく離れて横になっていたというのに。
……どうして寄ってくるのよ。
近付いてしまった距離に、ただの寝相だろうかと考えつつも内心焦る。
昼間はなんとか仕事をこなし、いつも通り彼より先に仕事から上がってベッドに入った。
私より遅れて休みに来た彼を、寝たふりをしてやり過ごしたと思っていたのに。
「……眠れないのか」
かかった声に、自分の目論見が泡と消えていた事を知る。
彼のはっきりした声音からして、どうやら眠っていたわけでは無いようだった。
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