musica dystopia

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 大男の反駁にお前は笑いをこらえる。初めて聞いた口調だった。そもそもこの紫煙のなかで何を言っても無駄だ。  ガスマスク越しの視線がテーブル席のひとつに向いた。客の男が立ち上がると近づいてくる。マスターの表情がこわばって、客だった男は手にしていた録音機器をカウンターの上で再生した。  メロディーが溢れだす。 「おめえ……!」  大男が立ち上がると血管の浮いた腕を男の肩に伸ばす。 「やめよう」  お前は諌めた。大男は無力を嘆いているかのような情けない瞳でお前を見ると糸が切れた操り人形の動作で席に座った。 「けっこうだ。ご苦労だった」ガスマスク越しの声。 「はい」再生をとめる。「失礼します」客だった男は代金をカウンターに載せると出て行った。 「ありがとう、ございました」マスターは裏切り者にも礼を言う。店内を見渡した。「いままでありがとう……お客さんたち、申し訳ないが、店じまいだ……」 「おっと、まだ帰らないでいただきたい。所持品検査を行う」 「こいつは」大男はお前を指す。「煙草も酒も演奏もしちゃいない。おめえらにどうこうする権限はない」 「ふむ、良いでしょう。身分を確認するに留めます、つぎはありません」
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