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晶華は、うなだれる。お前は気分を害したように眉を顰める。
「俺やあいつらをマヌケマヌケとオマエは言うが、俺が酒場に入り浸っているあいだ、オマエは何をしていたってんだ? 言ってみろ」
訊ねるというかたちではあったが、お前は晶華が何をしていたかの見当はついている。この質問は打撃のための予備動作めいたものだ。
晶華は息を吐くかのように自然にいう。
「鳴らしていたわ、奏でていたわ、歌いさえしたかもね」
「このご時世、音楽の練習なんか意味ないんだよ! メシの種にはならんし、大っぴらにもできない! マヌケはどっちだっていう話だ!!」
「あんたもやってんでしょうが!」
お前にブーメランが突き刺さる。
「そうだ、俺もオマエの言うところのマヌケだ。そんでオマエもマヌケだ。それでいいだろ」
「アタシは親がやってたから、なんか自然に、こっちの意思は関係ない感じだったし。仮に親がほかのものをやっていたとしたらそっちをやっていただろうし」
「ふーん」
「なによ」
晶華も音楽が好きなくせに自分はそうでもないような顔をして酒場の人間をマヌケと罵倒している。認めさせてやらねばならない。いまだってそうだ。両親が音楽をしていたからしかたなくみたいなことを言っている。
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