高二 九月

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「っ、は、はっ…はっ、は……ぁ……」 布団を()退()けるように上体を起こし、荒い呼吸を整える。 ゆっくりと深呼吸を繰り返し、汗ばんだ髪を掻き上げながらベッドを下りた。 タオルと替えの下着を掴み、シャワーを浴びるべく浴室に向かう。 嫌な夢を見た。 忘れてしまいたいのに、この体に染み付いた穢れがそれを許してくれない。 「()っ……」 傷口に熱いお湯が沁みて、はっとする。 腕に付けてしまった自らの紅い爪痕に、溜息混じりの苦笑を漏らす。 随分久し振りに、やってしまった。 もうすっかり治ったと思っていたのに。 忘れられない記憶なら、せめて暫くの間だけでいいから、硬く蓋をして。 でなきゃまたあの人に心配を掛けてしまう。 此処に居るのは、あんな記憶で自分を傷付ける為じゃない。 ───笑ってごらん。    楽しい事を思い出して─── 「…………うん……そうだね……」 鏡の中の自分に向い、笑みを作る。 だけど。 「……ごめん……」 此処ではもう、僕は誰にも笑わないと決めたんだ。 誰にも笑い掛けない。誰とも深くは関わらない。 それが自分で自分に課した決めごとだから。
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