高二 九月

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蒼く澄んだ空に、緑の葉がきらきらと揺れる。 まだじっとしてても汗ばむ季節だけど、多く植えられた緑の樹々が目には涼しい。 寮から校舎への道を少し横に入った、桜の立ち並ぶ小径。 ───大丈夫。 忌まわしい記憶にはしっかりと蓋をして、幸せな記憶だけを手繰り寄せよう。 部活や委員会には遅く、一般登校にはまだ早い時刻。誰も歩いていない道を横に入った。 葉擦れの音を聞きながらゆっくりと木陰を歩くと、生温い風に乗って爽やかな香りが鼻に届く。 桜の幹に背中を預け、目を閉じ大きく息を吸い込む。 涼やかな香りは暑さを忘れさせ、優しい記憶を連れて来てくれる。 どれぐらいそうしていたのだろう。耳に届いた足音と談笑の声に、目を開けて自然と緩んでいた口元を引き締める。 通学路に戻ると登校中の周りの生徒が瞬間静かになった。 そして僕と距離を取るように歩いて行く。 気持ちは解る。だってお坊ちゃんの多いこの学園には、制服を着崩したり派手な髪色やアクセを付けた生徒は殆ど居ないからね。 だけど、ねえ、皆は知ってるかな。 きちんとした格好をしてるからって、中身まで真面目とは限らないんだよ? 寧ろ見た目だけ真面目な人間の方がよっぽど牲質(たち)が悪い事があるって、僕は身を(もっ)て知っている。 自分の感情の(よど)みに気付いて、周りに気付かれないよう小さく頭を振る。 負の感情に呑まれちゃ駄目だ。 そんなものに振り回されて、大事な時間を無駄にしたくなんかない。 呼吸を整えながら、真っ直ぐに前を向いて校舎へと歩いた。
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