高二 九月

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2-Aの教室は二階の端。席は窓際の一番後ろ。 空調の良く効いている教室の窓は締め切られているけれど、窓の外に植えられた中庭の高い樹々の葉が陽の光を反射して緩やかな風に揺れる様が眠気を誘う。 今は古文の授業中。先生の読み上げる古典物語の響きがそれに拍車を掛ける。 勉強は嫌いじゃない。寧ろ学ぶ事は好きな方だと思う。 だけど個人的に何度も学んだ箇所はどうしても眠気に抗えずに耳を擦り抜けて行く。 それは古文に限らず他の授業でも同じだった。 以前は真面目に聞いてた授業を退屈に思う自分に呆れ、うんざりしてしまう。 実際僕にとっては授業に出る意味も無いのだけど、此処に居るには最低限やっぱり授業は受けなければならない。 やっと午前の授業の終わりを告げるチャムが鳴り、一気に教室が騒がしくなる。 「藤宮」 席を立ち上がった僕に声を掛けて来たのは、昨日担任から案内役を頼まれた狭山浩介。 人の良い笑顔で僕に近付いて来る。 「藤宮は昼はどうすんだ?食堂なら案内するけど」 「……いい。保健室に用があるから」 「なら一緒に行くよ。俺保健委員だし昼の当番だから」 正直に保健室って答えたのは(まず)かったかな、と少し後悔するけれど。 いい機会だから話しておくのもいいだろう。 「……僕が行くのは第二だから」 第二?と彼が首を傾げた。
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