高二 九月

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梶原先生は一年と少し前から僕の担当医で、今回の編入に合わせて先に春からこの学園に赴任していた。 僕の我儘の所為で、色んな人に迷惑を掛けてると思う。 だけどそれでも僕は。 「先生。………ありがとう」 小さく笑みを浮かべて告げると、先生は儚く微笑んだ。 それからふわりと僕の体を両腕で抱き込んで、ゆっくりと後ろ頭を撫でる。 「……僕達は皆、いつだって君の味方だよ。君の幸せだけを願ってる。覚えていなさい」 暖かな腕の中で、そっと目を閉じる。 どんな時だってずっと、僕の周りには優しい人達が居た。 色んな人達の優しさで、僕は今まで生かされて来た。 だから、ねえ先生。僕は充分幸せなんだよ。 どんな辛い事があったって、幸せだった過去は消えない。優しい記憶はずっと残る。 幸せだった記憶が欲しくて此処に来た。 だけど。 大切な人には出来ればやっぱり笑ってて欲しいって思うんだ。 その笑顔が見れればそれだけで、僕はもっと幸せなのに。 なのに僕にはどうする事も出来なくて。 それが堪らなくもどかしい。 ねえ先生。 僕はどうすればいいのかな。
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