高二 十二月 寒凪

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眉根を寄せながら黙って聞いていた浩介だったけど、僕がそう云って息を吐いた瞬間に顔を険しく歪めて唸った。 「何だよ……なんだよそれっ、完全に逆恨みじゃないかっ。あいつの兄弟に、父親を殺されたんじゃないか!お前が許せなかったの当たり前だよ!そんな身勝手な…っ」 「あの時は僕も子供で……お父さんが死んだ事も受け入れられなくて……あの医者の顔を見た途端、色んな事で頭がぐちゃぐちゃになって、勝手に体が動いてた。後の事は、今の父が全部やってくれて、何も知らなかったんだ。『お前は何も心配しなくていいんだよ』って、父に云われるまま甘えて。 ……でも、当たり前だけど、あの医者にも家族が居て……それを滅茶苦茶にしたのは、僕が怪我を負わせたからで……恨まれて、当然の事を、僕はしてしまったんだ……」 「違うっ!」 叫ぶと同時に浩介が強く僕を抱き締めた。 「そりゃ怪我させてしまった事後悔するのは解るよ。けどその医者が下手しなきゃ、お前の親父は死ななかったんだろ?しかも患者放置して女といちゃついてるヤツに医者の資格なんか無い、只の人殺しだっ。そもそもそこの次男が馬鹿やんなきゃ事故も起きなかった。そん時のお前にとってたった一人の家族で、大事な人だったんだろ?俺だったら怪我じゃ済まさない。ぶっ殺しても許せねぇ。 あいつにとってどんだけ良い兄貴だったか知らねーけど、そんだけ無茶苦茶やってやがったんだ。お前の事が無くたって医者辞めさせられてたよ。お前を恨むのは間違ってる!」 「お前は悪くない」と云う浩介の言葉に僕は、頷けなかった。 どんな人間であれ、結人君の大切な人を傷付けた事に変わりはないのだから。 結人君の処分はどうなるんだろう。 きっと父は教えてはくれない。 退学は免れないだろうしあの子のした事は許せるものじゃないけれど。 出来ればあの子が恨みから解放されて、前を向いて行けるように願う。
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