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「七海ちゃん、七海ちゃん、大丈夫?
酔っちゃった?」
違う、バカ。
君たちのせいに決まってる。
と、心の中で悪態をついた。
問いかけに答えず、机に突っ伏していた私を心配するように壱生くんの細い手が、
ふわりと頭を撫でた。
壱生くんの柔らかい声と髪をくしゃくしゃと
撫でつける手に癒される。
ん?
でも、なんだか声が近い。
まるで耳元で囁かれているみたいだ。
あまり深く考えず、声のした方にくるりと顔を向けてみると、壱生君の高い鼻先と私の高くもない鼻先がコツンとぶつかった。最初は近すぎて、目の前に何があるのかよく理解できなかったが、壱生くんの鼻息が唇にかかったその瞬間、躰が勝手に動いていた。
反射的に後ろに反り返った瞬間、
それは見事な音を奏でながら壁に後頭部を打ち付けていた。
ガゴンッ!!
思いのほか大きな音が出て、
二人が目を見開いて驚く顔が視界に入った。
自分の中では大きな音よりも衝撃の方が大きくてただ、ぐらりと視界が歪んだ世界の中で頭を抱えるしかなかった。
「ああっ!いぃったぁ!」
ドスの聞いた声が思わず出た。
恥ずかしさを感じる前に視界が白くなり、
漫画のように星が出て、チカチカ光った。
そのあとは、じんじんと痛みが大きくなっていくのを感じた。
「わぁ!あれぇ?大丈夫?大丈夫?」
間抜けな調子で尋ねられた。
もう!あ、な、た、の顔に驚いたの。
近いの距離が!
目の前の顔に喚いてやりたかったけど、優し気な目元で心配そうに私の顔を覗き込んでいる彼にそんなことを言うことはできなかった。
ああ、でもこれは本気で痛かった。
前から思ってたんだけど、壱生くんは
人との距離間が変だ。
心を許した相手には、
男女問わず抱きしめたりするのだけど、そういうのは本気でやめてほしい。
勝手にこっちが勘違いしちゃうから。
ただ、壱生くんの場合は、本当に男女や年齢に関係なくやってしまうから、余計にやっかいなのだ。
優しすぎるのも罪なのだ。
私はその優しさに弱い。
だから、気安く触れないで、
お願いだから。
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