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そんなことを考えながら、自然と距離を取り躰を離そうとすると、
「ごめん、ごめん。」
心底心配してるとでも言いたげに眉を下げ、壱生くんの腕の中に引き寄せられた。
抵抗などする余裕など、なかったのだから仕方がなかったのだ。
本当に一瞬の隙をついて引き寄せられたのだ。
私に抵抗するだけの間はなかった。
そう、心の中で言い訳をした。
それから何度も耳元に口を寄せ、
謝罪の言葉を囁かれた。
やめて、やめてよ。
壱生くんの温かい吐息と、
優しい言葉が私の心を掻き乱した。
「もういいから。謝らないでいいから離して。」
力が入らなくなって、やたらと揺れる声で、そう懇願したのに、決して開放はしてくれなかった。
さらには、もっと酷いことしてくる。
私を後ろから抱きしめながら、頭を撫で始めた。
「やっ、やめてったら。恥かしいから、撫でるのやめて。」
「え?なんで?撫でた方が痛みが和らぐでしょ?」
「でも・・・」
「でもじゃない。いいからおとなしくしてて。」
そう言われても、胸の奥のザワザワするし、躰が熱くなるのは止まらなかった。
しばらくの間、時を忘れたように壱生くんの腕の中で、大人しく頭を撫でられながら考えていた。何でこの人は、こんなに純粋なのだろうか、と。
切ない顔で私の顔を覗き込んでは、静かに微笑みを向けてくる。
何と素直な人なのだろうか。
あの瞳の奥まで澄み切った清らかな艶に私はすっかり魅了されていた。、
でも私はすぐにその目から避けるように顔を伏せた。
だって、私の心の中に渦巻く浅ましい感情を見透かされたくはなかったから。
だから、私を、私の心を覗かないで。
お願い。
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