煽動

8/12
前へ
/229ページ
次へ
急に向こうが静かになり、 振り向くと二人揃って私を見つめていた。 整った顔立ちの二人が同時に普通の主婦である私を見つめていた。 場合によってはなんて贅沢な場面だろうと思う時もある。 目が眩むような眩しいのだ。 さすがだ。 そこだけ雑誌のグラビアを切り取ったかのような 雰囲気に言葉を失い、時を忘れつい見惚れてしまっていた。 「七海ちゃん?おーい!」 不思議そうな顔を向け、開いた掌をこちらに向け ゆっくりと横に振っている。 その様子をぼんやりした頭で眺めて固まっていた。 「な・な・み・ちゃん!」 急に二人のユニゾンした声が耳に入り、はっとした。 止まっていた時が急に動き出したような感覚を感じた。 「あっ、ごめんごめん。なに?」 若干取り乱した事を隠すように、冷静なふりをして答えた。 「何?ようやく終わった?おっぱい談義。」 「え・・・と、うん。」 なんだかものすごく歯切れの悪い返事だった。 うん?何かあるな。 瞬時にそう感じた。 壱生くんが、ちょっと困った顔をして こめかみを掻きながら、頭を傾けている。 この仕草をする時は、彼にとって何か聞きづらい事がある時だ。 なんだ、まどろっこしいな、と思いながらも親切に聞いてやる。 「どうしたの?」     
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

530人が本棚に入れています
本棚に追加