「陰」「井戸」「禁じられた才能」

3/5
前へ
/5ページ
次へ
それからしばらくして、時々井戸から不思議な音が響くようになった。 夜中になると、井戸の暗い暗い影のそこから何かのうめき声のような。何かの悲鳴のような。重い重い不気味な音が木霊する。 はて? 風でも吹き込むようになったのかしら? と首を傾げつつ、私はそれを無視した。 そんな不気味な音が響く中、青年との交流も続いていた。 青年はいつも週末になると井戸を訪ねにやってくる。 彼曰く、学び舎の研究とかでこの井戸を調査しているらしい。来るときにはいつも調査道具だという、大きな荷物を抱えてやってくる。 何故かその荷物は帰るときにはなくなっているのだが、詳細はよくわからない。 「井戸にはあまり近づかない方が良いですよ。危ないので」 とのことなので、青年が来る間私は井戸に近づかないようにしていたからだ。 ――そういえば、青年が来るとあの風の音が大きくなる気がするが……。なんとなく、深く考えてはいけない気がして、私はその思考を放棄した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加