「陰」「井戸」「禁じられた才能」

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そんな交流がしばらく続いた時だった。 「あなたは生きる時代を間違えた。そう思うことはありませんか?」 ある日青年がそう切り出してきた。 ……正直、とてもめんどくさい。しかし、無視するわけにもいかず私は空返事で答える。 そうして、青年は話を続けた。 「ええあなたはそういう人でしょうね。とても物事を受け流す能力に長けている。だから色々なことを受け入れられる。例えばあの古井戸。例えば夜中の不気味な音。例えば私」 と、青年は怪しくほほ笑んだ。 「私は常日頃から思っているんですよ、生きる時代を間違えたって。自分で言うのもなんですが、私にはちょっとした才能がありまして……」 そう言って、青年はこちらに身を乗り出す。その姿はさっきまでの爽やかで清々しい雰囲気からは一転。蠱惑的な妖しい魅力に満ちていた。 「私のこれは現代では禁じられた才能だ。私にこの才能があると周囲に知れ渡れば、一瞬で信用を失うでしょう。現在では犯罪にもなる。反社会的な才能だ。――そして、そんな私にあなたは気づいている。私が井戸で何をしているのかも。夜な夜な井戸で何が呻いているのかも。気づいて気づかないふりをしている」 そんなことはない。と、否定したかったが、やめた。今更、否定したところでどうなることでもない。 ただ、同時に私の中の何かが叫んでいた。――これ以上、この青年の話を聞いてはいけない。何か、取り返しのつかないことに気づいてしまう……そんな気がする。 けれど、何故だかその場を動くこともできなくて……。 枯れ井戸から例の不気味な音が木霊する。 同時に、青年は怪しく笑い、私へこう問いかけた。 「もう一度尋ねます。あなたは生きる時代を間違えた、そう思うことはありませんか?」
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