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あれ、健二ってこんな顔だったっけ――?
こんな声、こんな笑顔、こんな話し方・・・・・・次々とあふれ出す。初めて出会ったときの健二の姿と、今目の前にいる健二の姿、それに今までの思い出もぐちゃぐちゃに混ざり合って心が混乱する。
健二は、出会ったときよりずっと大人っぽくなっていた、声も少し低くなって、笑い方も話し方も、ちょっと柔らかくなっている。
『これ、誕生日プレゼント。めっちゃバイトしたんだよ』
『ありがとう、大事にするから!』
(そうだ、あのときの―――)
それなのに、私がその腕時計をプレゼントしたときと同じ笑顔をするなんて。
「里沙?」
健二の声で何かが弾けるように、涙がこぼれた。
私は、健二のこと何も見ていなかったんだ。気付いていなかったんだ。
ただ無くなってしまったのだと、いや、最初から存在していなかったのだと決めつけて。
私は健二が好きだったし、健二も私を好きだった。
そして、健二はずっと私を大切に想ってくれていた。それなのに、自分は―――。
何も気付かずに、気付こうともせずに、悲劇のヒロインぶって、一人で分かった気になって、新しい人生を始めようとか、本当に馬鹿みたいだ。
「里沙、どうしたの?」
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