旅立ちの日

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「最近、こちらの世界では見られないような大きな塔も完成間近で、ちょうどいいタイミングですよ」 「塔だって?」 「そう、お客さまの行き先の国には、東京スカイツリーという塔が完成間近で建築中の様子が見られる絶好のタイミングです」 「ほう。それは、おもしろそうだな」 「それと、民主主義と言って、国の色々なことを、神様におまかせするのではなく、みんなで決めるのです」 「おお、それはいい」 「みんなの意見が取り入れられるのです」 「それじゃあ、こっちの国みたいに、旅の予約に十カ月もかかるなんてことはないんだろうな」 「たぶん……」 「こっちは、みんな神様がひとりで決めてしまうからな。俺たちの意見なんて聞いてもらえない」 「それに、向こうの国では、電気なんかも使い放題。夜でも、街は明るいのです」 「何だって?」 「原子力発電という技術で、とてもたくさんの電気が作れるのです」 「そんなことして、何か、危ないことはないのか?」 「それが、原子力発電というのは、絶対安全だということです」 「誰が言っているんだ?」 「みんなが選挙で選んだ政治家が言っています」 「そうか。みんなが選んだ人たちなら、きっと、たしかなんだろうな」 「そうでしょう。でも、こちらでお話ししたことは、向こうへ行ったら忘れてしまうことになっています」 「何だって?」 俺は、不思議だと思ったが、すぐに納得した。 「そうか。こっちで聞いたことなんて忘れてしまうくらい楽しいところなんだな」 「まあ、そういうことでしょう。それで、向こうではこっちのことを『あの世』と呼んでいるのですが、その中身はほとんど覚えていないのです」 そうして、ガイドに導かれてやってきたのは、何だかゲームセンターのようなところだった。 「このゴーグルとヘッドホンをつけてください」 「何だ、これ?」 俺は、奇妙なカプセルの中に入れられた。 「あの世はもうすぐです」 ガイドの声が聞こえると、俺は、トンネルの中に吸い込まれていくような気分になってきた。 「では、行ってらっしゃい。さあ、夢の世界への旅立ちです」
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