押し掛け女房

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 リビングに向かいながら、靴の脱ぐ彼女へ俺は言った。 「あんたさ、名前、なんだよ」 「佐栄子。君の未来のお嫁さん」  あ、本当に頭のネジぶっ飛んでる奴だ。これ。  やばいものを部屋に入れてしまったことを後悔しつつ、俺は小さなテーブルを挟んで向かい側に佐栄子を座らせた。 「で、なんで俺のところに来て泊めてとか付き合ってとかおかしいこといっているんだ」 「その様子だと本当に覚えていないのね。先日電車に置き忘れたハンドバッグを走って届けに来てくれたじゃない」  あ。  聞かされて思い出した。確かにこの人だ。好みの女性だったからよく覚えている。性格までわからなくて記憶と現実がすり合うのに時間がかかったのか。 「ああ。そういえば……。まさか、それだけで……?」 「そうよ。『あ、私この人と結婚するんだ』って直感で思っちゃったの。そしたら一日も早く会いたくて、声も聞きたくて、付き合いたくてで止まらなくなっちゃって」 「そう、ですか……」  たったそれだけで俺をストーキングして着いてきたのか。行動力に感心するべきか、叱るべきか。 「嫌ならせめて一泊だけでも。もう終電過ぎちゃってるし、帰れないの」     
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