押し掛け女房

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 俺は密かに裸足で逃げ出すのを期待していた。頭おかしい人はごめんだしな。こういう人間以外の奴らと関わってきたせいか、俺が最も恐いと思う生き物は人間だった。  だから、用心はしている。  人間が俺の家族を傷つけないように。  目の前の佐栄子は、いつしか強気な態度は完全に消え失せていた。顔を青ざめて両手で口を覆うことで、必死に悲鳴を殺している。 「ルールを説明しよう。『みんな仲良く』だ。難しいぞ」  ちょっと惜しいけど俺の家族を受け入れられない奴は帰らせる。  大切な存在を否定されるのは、誰だって哀しい。人間なんて小さな枠組みだ。  逃げ帰るかと思われた佐栄子だが。  一度深呼吸をして。 「ねえ。とりあえず、どなたがお父様でどなたがお母様……?」  青ざめたままの真顔でずれたことを聞いてきやがった。  俺は堪えきれず笑った。おかしすぎるだろ。馬鹿じゃねえの。  でも、最高だ。  怒り出す佐栄子に謝りながら俺は嬉しさと喜ばしさを噛み締めた。  俺はこの変な奴と仲良く慣れるだろうか。仲良くなりたいから、そう思えるんだ。  胸中で、家族に迎えられる佐栄子に囁く。  ―――ようこそ。奇妙な共同生活へ。 
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