第五話 癒えない傷

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「三人は結婚、昇進、栄転などが全てダメになり閑職に飛ばされました。社内でも風当たりが強いようですが、賠償請求額を支払う際に今後稼いででも返済させると加害者の両親に約束させたのが大きいようですね。針のむしろの上で、孤独のまま、しかし逃げることも出来ずに同じ職場に通っているようです」  賠償請求額に達したら彼らは別の行動を取るのだろうか。気にはなる。気にはなるけど、その頃にはもう僕はこの件から興味を失っていることだろう。 「わ、わかった、よ……あ、ありがと……さちさん……」 「はい、また何かあればどうぞ」  彼女は笑顔で地下室から出て行く。  静寂の中、一人になった僕は、僕の体の一部であるパソコンとサーバーの稼働している音以外長い空間で仕事を始める。何も仕事がないときに僕がすること。それは復讐をしたいと思っている人がいるかどうかを探すことだ。見つけたら情報を元に精査し、営業をかけるかどうかをお嬢様が決める。  僕は営業先になる可能性がある人を膨大なインターネットの情報網の中から探し出すのだ。もちろんノルマはない。だから好きなように出来る。 「少しいいかしら?」  仕事に熱中していたとき、地下室にまた誰か来たようだ。声の主を見ようと振り返るとそこにはいつものように綺麗な着物を着たお嬢様が立っていた。 「お、お嬢様……また、仕事……ですか?」 「いえ、今日はこれをあなたに届けに来ただけです」  お嬢様はそう言って僕に渡してきたのは新聞。僕は普段からネットニュースしか見ないので、新聞を手にするのは久しぶりだ。 「ネットニュースには出ないくらい小さなニュースなので」  お嬢様がそう言って差し出してきた新聞。明らかに特定の紙面が見やすいように折られている。つまりその場所に僕に見せたい記事があるということだ。 「……こ、これは……」  小さな隅っこにある記事。僕はその記事に目がとまる。興味深いネットニュースでも一回流し読みする程度の僕が、新聞の隅っこの小さな記事を三度も読み返してしまった。
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