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闇との戦いは、わたしの糧。
食べ物を口から摂取するのではなく、切り裂けば切り裂くほど満たされる。
活力がみなぎっていた。
夜の部屋に、鋼鉄のひとの姿で帰還した時、マンションの下のラーメン屋からは匂いがふわんと立ち上っていた。
窓を施錠し、眠る愛梨を振り向いた時、すでにわたしはどてらにジーンズ姿のシングルマザーであり、子供が寝着いて、やっと自由な時間を謳歌できる身分に戻っていた。
すうすうと愛梨は眠っており、つやつやのホッペはピンク色である。
蒲団の脇に屈みこんで、そっとホッペを撫でようとしたが、目覚めそうだからやめた。
愛梨の長い睫、よく整った顔立ちを眺めながら、わたしはさっき見てきたものを思い出す。
あの、闇の深淵に渦を巻いていたもの。
大きくて、手に負えなそうな、あれ――。
闇の表面を薙ぎ払ったほんの一瞬、空洞になった部分から覗いただけだった。
すぐにそれは別の闇に覆い尽くされ、もう手が届かなくなる。
あの部分にまで到達し、切り裂くには、わたし一人の力では無理だろう。
ぐろぐろと蠢き、不気味な笑みすら浮かべていたそれを思い出しているうちに、がくがくと全身が震え始めていた。
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